Entry

2006年01月01日

『過ぎ去りし永遠の日々』

  • 2006/01/01


第3話 邂逅




コーリンゲンの村の先にある切り立った岬。
まさしく断崖絶壁と呼ぶのにふさわしいその崖の下…冷ややかな月光の波しぶきを受け、それは存在した。
月夜に浮かび上がる純白の飛空挺。
さながら一枚の絵画の様な光景は、見るものを魅了する力を宿す。

「すげえ…」

捜し求めた存在を目の当たりにして彼は背筋がぞくりとするのを感じた。
それは命をかけたギャンブルをしている時の高揚感と似ていて…明らかに違うもの。
例えるなら初めて…切りつける様な風の中、雲間から覗く町を大地を見た時の様な感覚で、セッツァーは眩しい物を見るかのように目を細める。
月明かりの中に浮かび上がる白い巨大な飛空挺の名は『ファルコン』
ダリルという名の船乗りが所有するというソレは、彼…セッツァーが所有する黒い優美な外観の『ブラックジャック』とは対照的な代物だった。
(ファルコンは高速飛行を重視したスピード型の飛空挺なのか・・・?)
見惚れたとは言え、思わず口を開けたままの馬鹿ヅラで見上げる自分に気付き…彼は苦笑する。
自分とは全く違う主観の元で作り上げられた船。
月明かりを弾き闇に浮かび上がっているように見えるのは、船体が白い艶やかなパネルを隙間無く張り込んで作られている為。
おそらくそれは風の抵抗を限界まで無くす為なのだろう。と、セッツァーは推測した。
 船体そのものも無駄を限界まで削り込んだ結果だろうか。流れるような流線型をした船体は、刺す様に冷たい月光を浴びて、さながら銀の剣の様に闇に浮かび上がる。
それに・・・。と、彼は小さく呟く。
空の上は気流が入り乱れている。時に横から下から襲いかかる暴風の中、高速で飛ぶ飛空挺を制御するのは困難極まりない。
それなのファルコンは高速で飛行する事こそを目的に改装されているのだ。
一体どんな奴がこの飛空挺「ファルコン」を操縦しているというのか。酒場で感じた微かな嫉妬は何処かに消え今の彼が感じるのは純粋な興味。 

「折角だ、ダリルとやらのツラ拝んでやるか」

口の端を僅かに吊り上げながら低く呟き。彼は漆黒のコートを翻し、ファルコンに忍び込む為のポイントを探す為、飛空挺に近づいていく。
その瞳には不敵な…危険を犯す事すら楽しむギャンブラーの輝きが灯っていた。
ファルコンの内部は意外にも広さがあった。
(何故そこまで高速飛行に拘るんだ?)
足音を立てないよう、細心の注意を払いながら船内を散策したセッツァーが強く感じたのはそれだった。
セッツァーの優雅に楽しみながら空を飛ぶように、と設計されたブラックジャックとはかけ離れた構造。軽量化を測る為だろう、内部は部屋数もギリギリだったし装飾品などは全く無かった。

まさしく実用一点張りの飛空挺。

目にとって見れるこだわりは、外装にも感じた通りの徹底した。…むしろ執念すら感じる程の高速飛行の為の軽量化の後。
あまりの徹底振りに逆に感心しそうなほどだった。
「さて…船長が居るとしたら……何処かな」
セッツァーがファルコンに忍び込んでかなりたつ。
夜とは言え船員に会わないという保障は無いし、限られた空間しか無い飛空挺の中では隠れる場所も無く…見つかる可能性は高い。
目的の飛空挺は見た。いささか情けない方法だがファルコンの内部も見れた。当初の目的の中で残っているのは、噂のダリルを見る事…それが叶えば、捕まる前に逃げるだけだ。
「…残るのは…」
この扉の先…か。船内を散策し唯一残された扉に耳を当て、セッツァーは内部の様子をうかがった。と、研ぎ澄ました耳にカツカツと、固い床を歩くかすかな足音が届く。
足音が聞こえるのは彼が忍び込んだ方向から。前方はドアが一つ…それ以外に選択は無い。
セッツァーは自分が通れるギリギリの幅だけドアを開けると、音も無く部屋に忍び込んだ。
入り込んだ部屋は明かりも無く…暗かった。
(ちっ。無人じゃねえか…当てが外れたか?)
…意外に厚く出来ているドアに耳を当て、足音が遠ざかるのを確認する。まさか侵入者が居るとは思わなかったからだろう、足音は乱れることなく遠ざかっていった。
「ばれなかったか……」
ふう…とセッツァーは安堵のため息を漏らす。

「う…ん…」

僅かな衣擦れの音と共に、微かな声が聞こえたのはその時。ギクリ…と暗かった室内を見渡せば、微かに動くものが有るのが見えた。
目が慣れてきたからだろうか。先程は見えなかった室内は以外に豪奢なものだった。
調えられた机…趣味のいいグラスや酒瓶が納めれたれた棚。中央に配置されたテーブルにソファー…。
その声の持ち主はソファーにいた。
(女??)
暗闇でも解かる長い…豪奢な巻き毛。
薄物の上掛けの波打つラインは、女が優雅な肢体を持つ事を容易に想像させるものだった。
しかし何故、飛空挺の中に女が居るのか。セッツァーはいぶかしげに目をすがめる。
「だれ?」
艶やかな声だった。
「誰か居る……の?」
ゆるりと髪をかき上げて、女は問う。
(どうする?隠れるか…)
まだ目覚めて間もないからだろうか、定まらない視線の相手にセッツァーは思考をめぐらせた。今なら隠れる事も可能かもしれない。
しかし、少しでも疑問を持たれて人を呼ばれれば完全に逃げ場は無くなる。
相手は丸腰の女。卑怯だとは思うが、確実な方法は他に無い。
「静かにしてろ。そうすれば手は出さない」
素早く近づき、悲鳴をあげられない様に口を抑え、セッツァーがささやく。女は驚いたように目を開いた。
「何故飛空挺に女が居る?ダリルとやらの女か?」
「わたし…は…」
何が起こっているのか解っていないのだろうか。
言葉も出ない様子の相手に、セッツァーは嘆息する。緩めていた口を押さえつける手に、もう一度力を込めた。
悲鳴をあげようとして失敗したのだろうか、女の小さく喉がなる音が響く。
「すぐに出てく…お前は何も見なかった」
いいな?念を押すように口元を掴んだまま睨みつける。と、女は怯えたように頷いた。
突き放すように手を離すと、女は倒れるようにソファーに崩れ落ちる。舞うように広がった髪が女の表情を隠していた。
「折角だ…ダリルに会いたかったが、潮時だな」
抵抗する気力も無くした様子の相手に、セッツァーは興味を無くし、ファルコンから脱出する為にドアに向かい歩き出す。

意識は完全に女から外れていた。
だからこそ、セッツァーは気付かなかった。

髪に隠された翡翠の瞳に緑の炎が煌いた事を。口元に浮かんだ微かな笑みを……。

『過ぎ去りし永遠の日々』

  • 2006/01/01


第2話 策謀




その女が身に纏っているのだろうか。ひどく甘い香りが辺りに流れた。


「今はそれどころじゃない」
自分に体をすり寄せている女を冷たく一瞥し、セッツァーは男たちに向き直り話の続きを聞こうとする。
「そんな事いわないでさあ」
だがそれは首にまわされた女の腕に止められてしまった。
めんどくせえ…。舌打ちしながらセッツァーは無理やり女を引き剥がそうとするが、逆に抱きつかれてしまう。
耳元に感じるのは濡れた熱い吐息。
「あそこに2人連れがいるだろう?」
だが予想外に聞えたのは微かな、今までとは明らかに違う声音。内心の動揺は表には出さず、女を見るふりを
しながらセッツァーはそちらに視線を走らせる。確かに周囲とは違う雰囲気を漂わせた男が2人いた。
「あいつら帝国の兵士だよ」
その話は危険だという事か…。何か事情があるのかどうか、この女は客を誘う振りをして警告しているという事
なのだろう。どちらが本当にせよあいつらは危険だ、と彼のギャンブラーとしての勘も教える。
「ねえ。酒場でまで無粋な話はおやめよ」
女はなおも甘えたように擦り寄る。傍から見れば違和感は無いだろう…その役者ぶりに、女にしか解らない意
図を込め、片目を眇めセッツァーは苦く笑ってみせた。
「……しょがねえな…負けたよ」
続く少し呆れたようなかすれ声。周りには彼が誘いに負けたように見えただろう。騒ぎになるのを避ける為にも
そう見えてもらわねばならないのだが。
「そう来なくちゃ」
やっぱ相手をするなら良い男に限るね。ぐいとセッツァーの腕を引きながら楽しそうな声が響く。演技が成功した
証に、周囲からは男を落とした商売女への歓声と、少しばかり嫉妬を込めた野次があがった。
「さ。行こうか」
促す声に視線だけで答え。二人は酒場を抜け、奥に見える扉に向かう。
「姐さん。今度は俺の相手もしてくれよ!!」
「アタシに相手して欲しかったら、いい男になって帰ってきな」
ひときわ高い誰かの…多分常連だろう…陽気な声に、彼女はひらひらと手をふり答える。
常日頃から相手にされていないかかわされているのだろうか、声が聞えた辺りからは盛大な呻き声。そして酒
場中にふられた男への笑い声が響く。
立て付けが良いとは言えない扉の向こうに二人が消えると、酒場は喧騒を取り戻した。

まるで何の騒ぎも無かったかのように。

連れられて入った部屋は、酒場と同じ建物の中に有るとは思えない程静かだった。手早くランプの炎を調節し
て女は振り返る。長い髪が微かな炎に照らされて赤く輝いた。
「ここなら平気さ」
紅く彩られた唇の端に浮かべるのは謎めいた微笑。
「帝国の兵士に見張られるような店なのか、ここは?」
ずいぶん物騒だな。薄いカーテンが覆う窓際によりかかりながらセッツァーは口の端をつりあげる。この女が嘘をついている可能性も有る、まだ気は抜けなかった。
セッツァーは気付かれないように組んだ腕を上着の中のカードにかける。
鋭く尖ったカードの端は気休め程度とは言え、武器になのだ。
「ふふ…アンタがあの見慣れない飛空挺の持ち主だろう?」
「ああ」
鋭い視線にも女は悪びれた様子も無く、戸棚の中から琥珀色の液体で満たされた瓶とグラスを取り出す。
「ここはね。ダリルを捕まえる為に時々帝国の兵士がいたりするんだよ」
瓶の栓が抜かれると同時に流れてきた柔らかな匂いが、その液体が酒である事を知らせる。慣れた手付きで二人分のグラスに酒を注ぐと、彼女はセッツァーの隣に寄りかかるように並んだ。
いとおしげに満たされたグラスを掲げる。カーテンの隙間からもれる光を受け、グラスは硬質な輝きを放った。

「帝国はダリルが飛空挺を駆ってるのが気に入らないのさ。
 自分達だけの技術だと思ってるから」
くるり。と、弄ぶように回されたグラスの中で蜜色の液体が踊る。
「アタシが助けなきゃアンタもまずかったかもね。
 何となく気になったから助けてあげたけどさ」
くすくすと喉の奥で笑う相手にセッツァーは正直迷っていた。確かにここ数年、帝国は力をつけて来ている。
敵に回せば厄介な存在だし、これから飛空挺を駆る自分にとってもこの注告は有り難い…しかし。

「帝国は飛空挺の技術を外に漏らした人間は惨殺だもの」

『帝国』その言葉を口にした時、女の瞳が一瞬燃えるような輝きを見せる。
その様子でセッツァーは、女が何を考えているのか、何が目的で自分を助けたのかを悟った。
しかしそれだけでは意図は掴めない。
「何が目的だ?」
復讐の手助けでもしろというのか…それとも少しでも帝国を困らせたいのか…。セッツァーが問い掛けるのと同時に持ち上げられたグラスを一瞬の躊躇の後に受け取る。
その仕草の意味に気付いたのか、女は呆れたような表情を浮かべたが、何も無かったかのように流した。
「黒い…飛空挺…ね…」
ふと、セッツァーから視線をそらし琥珀色の液体を透ける淡い光に目を細める。

まるで懐かしいものを思い出している時のような遠い視線…。
酒場にいた時とも先程までとも違う女の様子に、セッツァーは黙って次の言葉を待った。

「なんて名前何だい?」

もちろん名前があるんだろう?自分を見下ろす紫の瞳を覗き込むように尋ねる。思っていたのとは違う問いかけ
に、セッツァーは片目を眇めてみせるが、女は気にしていないようだった。
「…『ブラックジャック』だ」
一瞬の沈黙の後、自分の問いに答える少しばかり誇らしげな男の声音に、女は僅かに微笑む。
「ダリルに会う気なら。暫くコーリンゲンの側にいるっていってたよ」
その答えに満足したように女はきびすを返してテーブルに戻り、再びグラスを満たす。そして、ともすれば聞き逃しそうな声音でそう呟いた。
「情報料は出ないぜ?」
空になったグラスに視線を落とし、再度女の意図を探る。…と、グラスが手から奪われた。引き返してきた女がセッツァーの手からグラスを奪い、そのまま窓枠に置いたのだ。
「かまわないよ」
いい男は好きだからね。
女は囁くように言うなり、腕を首に巻きつけセッツァーを引き寄せる。そして…。
伸び上がるようにしてセッツァーの唇に自分のそれを重ねた。
「まったく。ダリルといいアンタといい…全くなびきもしない。
 私もそろそろ引退した方がいいのかしらね」
長い抱擁の後体を離した女は、不意の口付けにも表情ひとつ動かさない相手を睨みつけながら、心底悔しそうに呟く。
セッツァーはしっとりとした感触が残る唇に指を当てた。
「そんな事は無いさ」
今日はたまたま別のものに興味があったからな。
だから相手をしないだけだ…と言外に告げ、不敵に笑ってみせる。セッツァーの言葉に多少は機嫌を直したのか、女は肩をすがめてみせた。

「そろそろ夜が明けるね…明けないうちに行くんだろ?」
「ああ。俺の飛空挺が待ってるからな」
白み始めた空の明かりが薄い布地を透して部屋に忍び込む。僅かに布をずらし、外を確認しながらセッツァーは答えた。外は僅かに霧が巻き白く霞み、人目を避けるには最適だった。
「気を付けてお行き」
朝霧の中。酒場の裏口から女が男を送る…珍しくも無い様子に、僅かに辺りを通りがかる街の人間も興味はなさそうだった。
足早に霧の中に溶けていく銀と黒の色合いを追いかけながら、女は長い髪をかきあげる。

鋭い不遜な眼光をたたえた紫の瞳が、飛空挺の話をした時だけ煌いた事を女は見逃さなかった。
そうあって欲しいと、そう願っていたからこそ見逃さなかったのかもしれない。
セッツァーが垣間見せたのは夢を追いかける者が共通してもつ、輝く瞳。

「夢を追いかけてる男は好きよ…
女なんて待ってるだけで…忘れられても泣くだけだけど」

それでも夢を見てる男を見ているのは好きよ…。愛しそうに呟きながら女の脳裏に浮かぶのは善良な男の姿。
いつも油まみれで仕事をしていた。不器用だけど優しい……もう何処にもいない人。
「ダリルもあの男も貴方と同じ瞳をしてるのよ」
ほんと嫌う事も出来ないんだから、嫌よね…。
言葉の割には悔しがっているふうでもない女の言葉は、誰に聞かれる事無く霧の中に消えた。

『過ぎ去りし永遠の日々』

  • 2006/01/01


第1話 紅の翼





太陽は名残惜しそうに地平線に消えていき、空は赤く燃えた色から徐々に夜へと色を移してゆく。
辺りが夜の静寂に変わり行く中、家路に急ぐ鳥達をあざ笑うかの様に移動する巨大な存在が有った。静寂を破り響くのは空気を切り裂くエンジン音。
それは黒い優美な外観を持つ飛空挺…だった。

「思ったよりも時間がかかったな」

読みがまだ甘かったか…。飛空挺のデッキの上で悔しそうに呟く男が居た。冷たくなってきた風が、飛空挺を操る彼の長い銀髪を容赦なく巻き上げる。
切り裂かれそうな冷たい風を受けても男は真っ直ぐ正面を見据えていた。
鋭く前方に向けられた瞳の色は、暮れ時の空と同じ濃い青紫。まだ若いであろう男の顔には年齢不相応の余裕と凄みがあった。
ゆったりと前方を見れば、間近に迫ったジドールの街の灯りが見える。
「日が暮れる。今日はここまでにするぞ」
慣れたとはいえ、まだ夜の飛行は危険だ。かじを取っていた船の主はそう判断し、船員に指示を出す。男の指示を受けて、巨大な飛空挺はゆっくりと大地に降り立った。
飛空挺…セッツァーが帝国しか持ち得ないその設計図を手に入れたのは、彼の本業であるギャンブラーとして賭博場にいた時だった。彼とのギャンブルに負けてチップを払えなくなった男が出したモノ…それが飛空挺の設
計図だったのだ。
 空に憧れていた彼はその設計図をひと目見て夢中になり、今まで稼いだ金をつぎ込み飛空挺の開発を始める。
後日、その日の相手は帝国の開発者で設計図を勝手に持ち出した罪で殺されたと聞いたが、彼にとっては
そんなことはどうでも良い事だった。
『空を自由に駆ける翼が手に入る』
セッツァーはそれだけに固執し、資金や人材を集め……幾度の失敗やテストを重ねていった。
彼によって『ブラックジャック』と名づけられた飛空挺が完成したのはつい先日。
設計図を手に入れてからは既に5年の歳月がたっていた。
「ねえ。お兄さん遊ばない?」
「また後でな」
活気を帯びた酒場の一角。声をかけて来た商売女をかわし、セッツァーは琥珀色の液体をあおる。
祝杯をあげる船員達に付き合い労をねぎらった後、彼は街に出かけ酒場の世間話に耳を傾けていた。目の前に広がるのは、流れる酒のにおい、煙草の煙…今日の疲れをねぎらう為に飲む客。
そんな男たちの相手をする艶やかな商売女たち。
どこの街でも同じ光景…足を踏み込んだ酒場は騒然としていた。
そもそも酒場は色々な人種が集まる場所。だからこそ、酒場のあちこちで交わされる情報は意義が有るものだと言える。
しかもジドールは、この大陸でも比較的裕福なものが住んでいる街だ。沢山の人が集まる場所には良くも悪くも情報も集まる…そして今回も彼が知りたい事もそこに有るはずだった。
「聞いたか??」
「何をだ?」
大仰にあげられた大声にセッツァーは耳を澄ます。ちらりと視線をやれば、街の住人らしい数人の男たちの姿が有った。
そのうち一人が興奮した様子で声を荒げる。
「飛空挺が街のそばに停泊してるらしいぜ」
「また帝国の持ち物じゃないのか?」
「いや、違うらしい」
ぴくり。と、セッツァーの指が動き…その動きにあわせてグラスの中の氷が鳴る。他人から自分の飛空挺の話題が出る。
それが此れほど嬉しいとは。まだまだ自分も若造だな…、自嘲気味な笑みを口の端に浮かべながらセッツァーはグラスの中の液体を飲み干した。
「じゃあ。あれじゃないのか?どうせファルコンだろう?」
「違う。ファルコンじゃ無いんだ」
(何だと!!ファルコンだと!!)
男たちの話は終わらず…しかし、その後聞えたセリフにセッツァーは耳を疑った。
「飛空挺に乗っている奴がいるのか!!」
勢いにまかせて立ち上がり、男たちのテーブルに向かう。立ち上がった拍子に椅子が盛大な音を立てたが、セッツァーは気にしなかった。
いや、そんな事に気を取られるほどの余裕が無かったというのが正解かもしれない。
それほど彼は狼狽していたのだ。
「何だお前ファルコンを知らねえのか?」
凄い勢いで迫ってきたセッツァーに男達は驚き、動きを止める。
「ファルコンはダリルの飛空挺だよ」
すぐさま、まるで自分の自慢をするかのように自慢げな表情で切り替えした。
「帝国の追尾を受けても、ひらりとかわしていくのさ」
見てると胸がすかっとするくらい見事な腕前なんだ。男は持っていたグラスを掲げ、隣の男に話を振る。
「気風の良い性格をしてるそうだよ」
「最近の有名人さね」
同意を求められた男も、そう言ってセッツァーに笑ってみせた。
ダリルという存在の話をする男たちは皆誇らしげで、いかに好かれているかをひしひしと感じた。
帝国以外には自分しか持って居ないと思っていた飛空挺を、自分以外に駆る存在。
話を聞けば聞く程、セッツァーの心中は穏やかでは無くなる。しかし、今は嫉妬よりも気になる事があった。
飛空挺を開発した帝国の技術は確かだ、それを回避するのならばファルコンは相当な性能を持っていることになる。
もしくは操る人間の腕前がよほどのものなのか…。
一体ダリルとはどんな奴なのか、ファルコンはどんな性能の飛空挺なのか。
「そいつの居所は…」
どこか知っているのか?掴みかかりそうな勢いで男たちに迫ろうとした瞬間、セッツァーの言葉は封じられた。
後ろから腕を強く引かれたのだ。と、同時に腕にしなだれかる重みとくすくすと笑う声が響く。

「ねえ、お兄さんそんな無粋な話してないでさ。アタシと遊んでよ」

突然の乱入者に驚きながらセッツァーが自分の腕に視線をやると、艶やかな薄いドレスに身をつつんだ上物の商売女が、セッツァーの腕に自分の体を預けていた。

『過ぎ去りし永遠の日々』

  • 2006/01/01


序章 邂逅




部屋の主の趣味に調えられたソファーに向かい合わせに座る男と少女がいた。銀の髪に紫の瞳の男の話を緑の巻き毛の少女は飽きることなく聞いている。
今までの話が聞きたいのだ…と、少女が言ったのはいつだったか。彼以外の仲間にもそう言って話を聞いていたのは知っていたから、少女がそういい出したのは何故かも別段気にすることもなかった。
その日から男は苦笑しながら、幾度も彼の部屋に来る少女に付き合い…何時の間にかソレは当たり前の時間になっていた。
最初は気まぐれ封じら…でも今は違う。その身に持つ『魔導』という力の所為で感情を消され、道具として使われていたと言う少女…。

それ故に彼女の感情に乏しい瞳が、時々興味深そうに煌くのが見たい…。
男がそう思ったからかもしれない。
「どうして飛空艇に乗る事になったの?」
今日も少女は淡い水色の瞳をわずかに輝かせながら男に問う。辺りは夜の静寂が流れ…
部屋の中には少女の静かな声が響いた。
「空の上から世界を見てみたかったのさ」
何を今更と言わんばかりに、男は大仰に肩をすがめてみせた。何も変わらない、何時も通りの仕草。
しかし少女も知っていた。
彼の愛する飛空挺…その話題になったときだけ、男の瞳が少年のように煌く事を。

「それだけ?」

何時からか解らないがそれに気付いた時から、彼女はそんな彼の瞳を見るのが好きになった。多分誰も気付いていない、その事実を知っているのが自分だけ…その現実が嬉しくて、その瞳をもっとみていたくて…。
だから、その少女の問いに特に深い意味はなかったのだ。
「勝ちたいと思っていた奴もいたな」
だが男の動きは一瞬止まり…今までとは違った重い声が、辺りに響く。
「勝ちたい…人?」
解らないという様に首を傾げると、男は目の前の少女から窓の外に広がる星空へと視線をそらす。
少女は黙ってしまった男が再び口を開くのを、静かに待っていた。
「そいつに俺が初めて会ったのは…ひどく昔の事」
どれくらいたっただろうか…男は遠くを見つめたまま話始める。
「ブラックジャックを完成させ、大陸を越えた先の街にいた時だった。
飛空艇を完成させたのは自分だけだ…と、有頂天になっていた俺をどんぞこの気分に叩き落した存在。
とにかく初対面の印象は最悪だった」

「……貴方は、その人が嫌いだったの?」

その話題になった時、机の上で組まれた男の指に一瞬力がこめられたのに気付き、少女は問う。どんな時でも余裕と自信を失わない目の前の男…彼でも何か動揺する事が有ったのだろうか?
それが不思議でならなかった。

「嫌い…か。そうだな嫌いだったかも知れない」

「最初…は。な」
一瞬の動揺を覆い隠してゆるゆると振り返り、口の端に僅かな笑みを浮かべ少女をみつめ返す。
自分をみつめるのは疑う事を知らない無垢の瞳…それは時に隠してきた全てを暴く凶器になる。
それでも男は言葉を綴る。誰かに言ってしまいたかったのかもしれない…もしくは相手が彼女だからこそ話す気になったのか。
「そのくせ何時の間にか同じ夢を語り合う親友になっていた」
遠い昔に思いを馳せるように目を閉じる。
彼がその相手を思い出す時のイメージは鮮烈な金。もしくは何もかも焼き尽くしそうな炎のような赤。

「長い金の髪を風になびかせ、荒くれ共を制し、最速の飛空挺『ファルコン』を駆る存在。
 そいつの名はダリル」
少なくとも森の中から抜けてきたような穏やかな、でも激しさも秘めた目の前の少女。
彼女とは全く違うイメージだった…男は心の中でふと思う。
「ダリル……この船の持ち主…だった。という人??」
知らない…見たことも無い表情。良く知っている相手が見知らぬ相手の様に見えて…少女の。…ティナの声は僅かに硬くなる。
何故そんな風に感じるかも解らなかったが、何か心がざわざわするような嫌な気がした。

「そうだ…『ダリル』…それが世界最速と呼ばれた女の名前」

そんな少女の様子に気付かず、男…セッツァー・ギャッビアー二は昔に思いを馳せ話を始めた。
彼が大空に飛び立った、その時の事を。

Pagination

Utility

Calendar

12 2006.01 02
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -

新着ページ

Archive

Entry Search