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User: tsukishiro

アカツキ

  • 2006/01/01

ファイル on-01.jpg
ちょっと漫画版を見るつもりが、うっかりアカツキに惚れてしまいました。
ちっさくても良いけど大きいのもイイ。
モンジュとの掛け合いもイイ(惚)

『過ぎ去りし永遠の日々』

  • 2006/01/01


第5話 静寂の彼方




首筋に鈍痛が走る。
(何所かにぶつけたっけかな)
浮上する意識の中。感じた覚えの無い鈍い痛みに、セッツァーは彷徨う己の意識をかき集めた。
ソファーで寝てしまった所為で寝違えたのだろうか?
自分の体の下。ふわりとした、しかし寝るには少々固めのソファーのような感触にふと考える。
(そうか…俺はファルコンを探して…)
他には存在しないと思っていた飛空挺。己の夢の結晶…最高の翼『ブラックジャック』だが、彼の所有するブラックジャック意外にも飛空挺が存在していた事を知った。
それも『世界最速』と言われる飛空挺が、だ。
その存在を知った時から、彼は…セッツァーは興味を持った。
世界最速と呼ばれる船に…それを操るダリルという存在に。同じ空を駆ける相手を見てみたかった。
(それから…)
そしてとうとう見つけたのだ。漆黒の翼とは対象の月光を弾き返す白亜の翼を。

「何時まで寝ているつもりだ」
突然耳に届いた呆れるような声音に、セッツァーは飛び起きるように跳ね起きた。
慌てて見上げれば、自分が寝かされているソファーの横。柔らかに光沢を持つ木目の机に腰掛け、優美にカップを傾ける…その姿。
「おかげ様で…目覚めが悪くてね」
わざとらしく首筋を押さえ、睨むように視線を送ってみせる。
先程までのまどろみから一瞬で覚醒した意識は、自分が今どんな状況にいるかを理解していた。
長い豊かな金髪を無造作に流した女…最速の飛空挺ファルコンの主…ダリル。
先程までの服とは異なり、男物のズボンに上着を着込こんだ船の主は、セッツァーの様子に「おや?」とばかりに目をすがめてみせた。
「それはそれは」
随分やわな体なんだな。口元に薄く笑みを浮かべ、さらりと切り返す相手にセッツァーは心底ため息をついた。
自尊心は有る。ましてや女相手に…そういう感情も有る。
しかし…しかしだ…
「かなわねえな」
世の中には認めたくなくても認めなくてはならない『現実』というものが有るのだ。
それを認めない限り先に勧めない事も。潔さも才能のうち。
「どうした?妙に諦めが早いじゃないか」
かすかに驚いたような色を見せるダリルの声に、彼は長い銀髪が乱れるのにも構わず片手で頭をかき回す。
「頑張っても勝てねえ相手には勝てねえよ…」
今は…な。ちゃっかりと語尾に挑戦の言葉を足して、吐き捨てる様に言い切ると、こともあろうに彼女は笑い出した。
心底おかしいとでも言うように。

本当にかなわない。

晴れ渡る空のように鮮やかに響く笑い声を聞きながら、セッツァーは視線をダリルからそらした。
その日からダリルとセッツァーは行動をともにする事が多くなった、ダリルの持っていた飛空挺の知識は彼にとって有意義なものばかりで有ったし。
ブラックジャックの乗組員にとっても、先に空に飛び出したファルコンの
船員の知識はありがいものであったのだ。
いつしかブラックジャックとファルコンは知らない者がいない程、有名になっていった…。

「確かに凄い知識だった。」

飛空挺についてなら知らない事はないんじゃないかと思うほど…それほどダリルは凄かったのだ。

「そして操舵も…」

男がすくむような場面でも、決して逃げたりはしない。それどころか嬉々として先に進んで行く…そんな所が有ったのだ。
後ろなど振り向かない…そんな強さ。

「とんでもないヤツに会ってしまった。最終的には…それが正直な感想だな」

手にもったグラスの中、申し訳程度に浮かぶ氷をくるりと回してから、セッツァーは残りの琥珀色の液体を飲み干した。
空になったグラスが部屋の明かりを鈍く映し出す。
目の前の少女の、保護者代りの相手に怒られそうな部分は出来るだけ省いたけれど…随分長い時間がたっていた。
にもかかわらず、目の前の少女は飽きた様子もなくじっと自分をみつめている。
自分を映し出す…鏡のようにきらめく瞳。

「……とんでもない?」

「無鉄砲。無謀の塊…危険なんかかえりみない…無茶苦茶なヤツだったからな」
唇に白い手を当て、言葉の意味を図りかねている相手の様子に、セッツァーはそう言葉を足してやる。
「船の軽量化は危険が伴う。一歩間違えば空中分解…そのままおだぶつだからな」
人間は空から落ちりゃあ死ぬもんだ。
ダリルがそうだったように。心の中で漏らしたセッツァーのつぶやきが聞こえたとでも言うように、ティナは少し悲しげに口の端に笑みを浮かべた。
空から落ちても、自ら望まない限り彼女は死ぬ事は無い…幻獣と人間の間に生まれた少女。
彼女は自らの魔力で空すらも自由に駆ける。
他人と違うことを悲しむ少女は、それが悲しいのだろう。

「俺はお前さんがうらやましいがね」

自分の力で空を飛べる。それは彼にとって、空を求めるものにとって永遠の憧れ…。
「私はイヤだった…みんなとは違う…この『力』…」
ふい。と、ティナは視線を外にうつす。
そんな彼女の動きにあわせ。部屋の明かりが、その青い瞳に長い睫の影を落とした。
「でも…すべてあわせて私だもの」
一瞬揺らめくように金色に色を変えた瞳は、また強い光を宿してセッツァーを見つめる。
出合ったばかりの頃ならば、声もなく泣き出しただろう相手の…静かな…けれど強い声にセッツァーは小さく微笑んだ。
つられたようにティナも微笑み返す。

「さて。そろそろ部屋に戻りな。
 これ以上遅くなると、あいつらが煩いからな」

顔も声も良い上に人好きのする笑顔をうかべた、なかなか食えない性格の仲間を思い出し。
セッツァーはゆったりとしたソファーから腰を浮かせる。
「また話を聞かせてくれる?」
重い扉に手をかけてティナは、自分よりも背の高いセッツァーの瞳を覗き込む。セッツァーの瞳は夕焼けのような明るい紫で…。
その瞳にうつる色がティナは大好きだった。
「暇ならつきあってやるよ」
いいざまセッツァーはティナの頭に手を置くと、くしゃりと髪をかき混ぜる。
「セッツァーッ」
ぐしゃぐしゃになってしまった髪の毛を慌てて直しながら、ティナは怒ったように声をあげてみせた。
怒っていないのが解かるからだろう、セッツァーはもう一度髪をかきまぜようと手を上げる。そんなセッツァーにティナは逆に抱きつき…強く、強く腕に力をこめる。

「ティナ?」
「ふふ…おやすみなさい!!」
どうしたんだとセッツァーに問われる前に。まるで何も無かったかのように体を離して軽やかに廊下を走り去る。
「女は魔物とは言うがな…」
扉の前に残されたセッツァーは低く喉の奥で笑う。
自覚無ならば無邪気…自覚してやっているのなら魔性。
普段はくるくると表情を動かし。感情をあらわにする。その実,、肝心な所では何を考えているのか解からない存在。
きっと男には永遠に解からないのだろう。
そこに惹かれるのかも知れない。
ゆっくりと部屋に戻り…セッツァーは空になっていたグラスに琥珀の液体を注いだ。
来訪者が去った後の、奇妙な沈黙が部屋を満たす。普段は好んで身をおく静けさが今日はやけに重かった。

「そういや結局お前が何者かなんて…俺は知らなかったな」

何故帝国しか持ちえないはずの飛空挺を持っていたのか。
何故そこまで速く、ただひたすら速く空を駆けることにこだわってっていたのか…。
あの強さは…本当は何処からきていたのか…。
そんな事は当時は気にならなかったのだ。
ともに空を翔ける事の出来る存在…それだけでよかった。過去などどうでも良かった。
「お前は…本当は何がしたかったんだ?ダリル…?」
燃えるように輝く翡翠の瞳。見つめる視線のその先に何があったのか。
自分は親友と呼んだ相手の過去を知らない。何を求め何を信じていたのか…本当の所は何も知らないのだ。

あの時も…そうだったように。



『過ぎ去りし永遠の日々』

  • 2006/01/01


第4話 真緋 ake




何故か解らなかった…。
あえて言えば直感というモノが働いたとしか言えない。

セッツァーが部屋から出る為に扉に手をかけようとした、その時。
無意識に体は横に飛び………。
見上げれば、先程までセッツァーが立っていた場所に何かが突き刺さっていた。
「な………」
視線の先にうつる物は、細かな装飾と宝石をあしらった柄。曇りの無い銀色の煌き…。
ギャンブラーの彼にとっては見慣れたそれは、ゲームに使う為だけに造られた。しかし実用性も兼ね備えた投げナイフだった。
「お前…」
ナイフは確実にセッツァーの首を狙って投げられたもので…。
避けられなければ命を落とさないにしても、かなり危なかっただろう事は容易に想像できる。これを投げた相手は相当な腕前だという事も…。
一瞬の間に誰かが入ってきた様子は、感じられなかった。
ならばセッツァーの背後には、無力である…と、彼が勝手に決めつけた女が一人いるだけ。
「何のつもりだ?」
睨みつけるように振り返った先には、薄物の上掛けを巻きつけた女が悠然と立っていた。彼がソファーの上に投げだした…美しい。しかし弱い女、のはずであった。
しかし、セッツァーの目に飛び込んできたのは……、

「女だからといって甘く見るとは抜けてる」

くくっ、とその女は喉を鳴らした。
嘲笑うように告げる声は笑いを含んだ低く…けれどよく通る声。
髪の色が違うわけでも、瞳の色が変わった訳でも無い。それなのに、セッツァーが怯えていると思った。
消えそうな、気の弱い女は消えうせ…変わりに存在するのは、緑の瞳に冷ややかな光を宿した女。
浮かべる表情が違う。話し方も違う。
だが、何よりも先程と圧倒的に違うのは、別人だと思わせるのは…身にまとうその雰囲気の違い。
小さな窓から、僅かに漏れる刺すような月光に照らされているというのに、目の前の相手から受ける印象は鮮やかな深紅の炎のようだった。
「それで良く今まで生き延びて来たものだ」
賭け事師だというのに。
とっさに押し殺して見せたのは感心できるが、それでも僅かな動揺を隠し切れない相手に女は笑う。
紫の瞳には僅かに揺れ…いま何が起こっているか必死に考えているのが見て取れた。
そう、自分が対峙している銀の髪の男は…世間にもまれて来たとはいえ、まだ若いのだ。一見冷ややかに見える目の前の相手が、一体どんな手を使ってこの場を乗り切るのか…。
彼女は挑発するように、更に笑みを深くする。

「さあどうする?…逃げるか?私を倒すか?」

巻きつけた布を剥がしながら、女は静かに問いかける。無造作に下ろすその手には、抜け目無く数本のナイフが握られていた。
(完全に読みが甘かった)
見てくれに騙されて、脅しておけば黙っているだろう…そう思ったのは間違いだったのだ。
セッツァーは正面で薄く微笑む相手から視線を外さず舌打ちした。
やはり…ファルコンの一番奥に有った、この部屋は。最初の読みの通りファルコンの主たる船乗りのモノだったのだ。

つまり、目の前の女こそがダリル…。

ようやくたどり着いた答えに、相手に向けた視線を更に険しくする。この女がダリルだというなら…自分はまんまと罠にかけられた事になる。
「嫌な演技をしてくれるもんだ」
「名演技だったろう?」
搾り出すような悔しそうな呟きに、返事とばかりにダリルの豪快な笑い声があたりに響く。
遊ばれているとしか思えない相手の態度に、セッツァーは心底油断した自分の迂闊さに腹を立てた。しかし後悔しても、現在置かれている状況が変わる訳がない……ここから脱出する手段を考えるしか無い。
「さあ…どうする?」
逃げるか…だがどうやって。視線は薄く微笑んだままのダリルから外さず、セッツァーはぎり…と唇を噛んだ。
自分の腕前に自信が無いわけでは無い。今までにも賭博場の用心棒相手に渡りあい、生き残って来たのだ…自分に相当な腕がある事は彼は知っていた。
しかし今回は相手が悪い。この…セッツァーの前に立ちはだかる、ダリルの腕は自分より遥かに上なのだ。
このまま切りあえば確実に負けるのは解っていた。

「どうした?反撃もできないのか?」
「なっ……」
全く気にしていなかった背後から聞こえた声に、セッツァーは言葉を失い…自らの背筋が泡立つのを感じた。
…まさしく一瞬。
セッツァーが思考を巡らせている間に、彼の前にいたはずのダリルは、隙をついて背後に回りこんだのだ。
反撃する為に振り向こうとする彼の動きは、首筋に当てられた冷たい感触にさえぎられる。
僅かな躊躇の間にセッツァーの首筋にはナイフが当てられていた。
「この状況で考え事か?」
それにしては、決断を出すのが遅いんじゃないか?呆れたような声が聞こえるのと、後頭部に鈍い衝撃が走ったのはほぼ同時。
薄れていく意識に従い倒れていく体…その傾いていく視界の端に、セッツァーは自分を見下ろしながら笑うその女を…睨みつける。

「……油断大敵だよ。ボウヤ?」

笑いを含んだ、しかし諭すような響きの呟き。
だが、床に倒れた銀髪の男の耳にその声は届いてはいなかった……。



『過ぎ去りし永遠の日々』

  • 2006/01/01


第3話 邂逅




コーリンゲンの村の先にある切り立った岬。
まさしく断崖絶壁と呼ぶのにふさわしいその崖の下…冷ややかな月光の波しぶきを受け、それは存在した。
月夜に浮かび上がる純白の飛空挺。
さながら一枚の絵画の様な光景は、見るものを魅了する力を宿す。

「すげえ…」

捜し求めた存在を目の当たりにして彼は背筋がぞくりとするのを感じた。
それは命をかけたギャンブルをしている時の高揚感と似ていて…明らかに違うもの。
例えるなら初めて…切りつける様な風の中、雲間から覗く町を大地を見た時の様な感覚で、セッツァーは眩しい物を見るかのように目を細める。
月明かりの中に浮かび上がる白い巨大な飛空挺の名は『ファルコン』
ダリルという名の船乗りが所有するというソレは、彼…セッツァーが所有する黒い優美な外観の『ブラックジャック』とは対照的な代物だった。
(ファルコンは高速飛行を重視したスピード型の飛空挺なのか・・・?)
見惚れたとは言え、思わず口を開けたままの馬鹿ヅラで見上げる自分に気付き…彼は苦笑する。
自分とは全く違う主観の元で作り上げられた船。
月明かりを弾き闇に浮かび上がっているように見えるのは、船体が白い艶やかなパネルを隙間無く張り込んで作られている為。
おそらくそれは風の抵抗を限界まで無くす為なのだろう。と、セッツァーは推測した。
 船体そのものも無駄を限界まで削り込んだ結果だろうか。流れるような流線型をした船体は、刺す様に冷たい月光を浴びて、さながら銀の剣の様に闇に浮かび上がる。
それに・・・。と、彼は小さく呟く。
空の上は気流が入り乱れている。時に横から下から襲いかかる暴風の中、高速で飛ぶ飛空挺を制御するのは困難極まりない。
それなのファルコンは高速で飛行する事こそを目的に改装されているのだ。
一体どんな奴がこの飛空挺「ファルコン」を操縦しているというのか。酒場で感じた微かな嫉妬は何処かに消え今の彼が感じるのは純粋な興味。 

「折角だ、ダリルとやらのツラ拝んでやるか」

口の端を僅かに吊り上げながら低く呟き。彼は漆黒のコートを翻し、ファルコンに忍び込む為のポイントを探す為、飛空挺に近づいていく。
その瞳には不敵な…危険を犯す事すら楽しむギャンブラーの輝きが灯っていた。
ファルコンの内部は意外にも広さがあった。
(何故そこまで高速飛行に拘るんだ?)
足音を立てないよう、細心の注意を払いながら船内を散策したセッツァーが強く感じたのはそれだった。
セッツァーの優雅に楽しみながら空を飛ぶように、と設計されたブラックジャックとはかけ離れた構造。軽量化を測る為だろう、内部は部屋数もギリギリだったし装飾品などは全く無かった。

まさしく実用一点張りの飛空挺。

目にとって見れるこだわりは、外装にも感じた通りの徹底した。…むしろ執念すら感じる程の高速飛行の為の軽量化の後。
あまりの徹底振りに逆に感心しそうなほどだった。
「さて…船長が居るとしたら……何処かな」
セッツァーがファルコンに忍び込んでかなりたつ。
夜とは言え船員に会わないという保障は無いし、限られた空間しか無い飛空挺の中では隠れる場所も無く…見つかる可能性は高い。
目的の飛空挺は見た。いささか情けない方法だがファルコンの内部も見れた。当初の目的の中で残っているのは、噂のダリルを見る事…それが叶えば、捕まる前に逃げるだけだ。
「…残るのは…」
この扉の先…か。船内を散策し唯一残された扉に耳を当て、セッツァーは内部の様子をうかがった。と、研ぎ澄ました耳にカツカツと、固い床を歩くかすかな足音が届く。
足音が聞こえるのは彼が忍び込んだ方向から。前方はドアが一つ…それ以外に選択は無い。
セッツァーは自分が通れるギリギリの幅だけドアを開けると、音も無く部屋に忍び込んだ。
入り込んだ部屋は明かりも無く…暗かった。
(ちっ。無人じゃねえか…当てが外れたか?)
…意外に厚く出来ているドアに耳を当て、足音が遠ざかるのを確認する。まさか侵入者が居るとは思わなかったからだろう、足音は乱れることなく遠ざかっていった。
「ばれなかったか……」
ふう…とセッツァーは安堵のため息を漏らす。

「う…ん…」

僅かな衣擦れの音と共に、微かな声が聞こえたのはその時。ギクリ…と暗かった室内を見渡せば、微かに動くものが有るのが見えた。
目が慣れてきたからだろうか。先程は見えなかった室内は以外に豪奢なものだった。
調えられた机…趣味のいいグラスや酒瓶が納めれたれた棚。中央に配置されたテーブルにソファー…。
その声の持ち主はソファーにいた。
(女??)
暗闇でも解かる長い…豪奢な巻き毛。
薄物の上掛けの波打つラインは、女が優雅な肢体を持つ事を容易に想像させるものだった。
しかし何故、飛空挺の中に女が居るのか。セッツァーはいぶかしげに目をすがめる。
「だれ?」
艶やかな声だった。
「誰か居る……の?」
ゆるりと髪をかき上げて、女は問う。
(どうする?隠れるか…)
まだ目覚めて間もないからだろうか、定まらない視線の相手にセッツァーは思考をめぐらせた。今なら隠れる事も可能かもしれない。
しかし、少しでも疑問を持たれて人を呼ばれれば完全に逃げ場は無くなる。
相手は丸腰の女。卑怯だとは思うが、確実な方法は他に無い。
「静かにしてろ。そうすれば手は出さない」
素早く近づき、悲鳴をあげられない様に口を抑え、セッツァーがささやく。女は驚いたように目を開いた。
「何故飛空挺に女が居る?ダリルとやらの女か?」
「わたし…は…」
何が起こっているのか解っていないのだろうか。
言葉も出ない様子の相手に、セッツァーは嘆息する。緩めていた口を押さえつける手に、もう一度力を込めた。
悲鳴をあげようとして失敗したのだろうか、女の小さく喉がなる音が響く。
「すぐに出てく…お前は何も見なかった」
いいな?念を押すように口元を掴んだまま睨みつける。と、女は怯えたように頷いた。
突き放すように手を離すと、女は倒れるようにソファーに崩れ落ちる。舞うように広がった髪が女の表情を隠していた。
「折角だ…ダリルに会いたかったが、潮時だな」
抵抗する気力も無くした様子の相手に、セッツァーは興味を無くし、ファルコンから脱出する為にドアに向かい歩き出す。

意識は完全に女から外れていた。
だからこそ、セッツァーは気付かなかった。

髪に隠された翡翠の瞳に緑の炎が煌いた事を。口元に浮かんだ微かな笑みを……。

『過ぎ去りし永遠の日々』

  • 2006/01/01


第2話 策謀




その女が身に纏っているのだろうか。ひどく甘い香りが辺りに流れた。


「今はそれどころじゃない」
自分に体をすり寄せている女を冷たく一瞥し、セッツァーは男たちに向き直り話の続きを聞こうとする。
「そんな事いわないでさあ」
だがそれは首にまわされた女の腕に止められてしまった。
めんどくせえ…。舌打ちしながらセッツァーは無理やり女を引き剥がそうとするが、逆に抱きつかれてしまう。
耳元に感じるのは濡れた熱い吐息。
「あそこに2人連れがいるだろう?」
だが予想外に聞えたのは微かな、今までとは明らかに違う声音。内心の動揺は表には出さず、女を見るふりを
しながらセッツァーはそちらに視線を走らせる。確かに周囲とは違う雰囲気を漂わせた男が2人いた。
「あいつら帝国の兵士だよ」
その話は危険だという事か…。何か事情があるのかどうか、この女は客を誘う振りをして警告しているという事
なのだろう。どちらが本当にせよあいつらは危険だ、と彼のギャンブラーとしての勘も教える。
「ねえ。酒場でまで無粋な話はおやめよ」
女はなおも甘えたように擦り寄る。傍から見れば違和感は無いだろう…その役者ぶりに、女にしか解らない意
図を込め、片目を眇めセッツァーは苦く笑ってみせた。
「……しょがねえな…負けたよ」
続く少し呆れたようなかすれ声。周りには彼が誘いに負けたように見えただろう。騒ぎになるのを避ける為にも
そう見えてもらわねばならないのだが。
「そう来なくちゃ」
やっぱ相手をするなら良い男に限るね。ぐいとセッツァーの腕を引きながら楽しそうな声が響く。演技が成功した
証に、周囲からは男を落とした商売女への歓声と、少しばかり嫉妬を込めた野次があがった。
「さ。行こうか」
促す声に視線だけで答え。二人は酒場を抜け、奥に見える扉に向かう。
「姐さん。今度は俺の相手もしてくれよ!!」
「アタシに相手して欲しかったら、いい男になって帰ってきな」
ひときわ高い誰かの…多分常連だろう…陽気な声に、彼女はひらひらと手をふり答える。
常日頃から相手にされていないかかわされているのだろうか、声が聞えた辺りからは盛大な呻き声。そして酒
場中にふられた男への笑い声が響く。
立て付けが良いとは言えない扉の向こうに二人が消えると、酒場は喧騒を取り戻した。

まるで何の騒ぎも無かったかのように。

連れられて入った部屋は、酒場と同じ建物の中に有るとは思えない程静かだった。手早くランプの炎を調節し
て女は振り返る。長い髪が微かな炎に照らされて赤く輝いた。
「ここなら平気さ」
紅く彩られた唇の端に浮かべるのは謎めいた微笑。
「帝国の兵士に見張られるような店なのか、ここは?」
ずいぶん物騒だな。薄いカーテンが覆う窓際によりかかりながらセッツァーは口の端をつりあげる。この女が嘘をついている可能性も有る、まだ気は抜けなかった。
セッツァーは気付かれないように組んだ腕を上着の中のカードにかける。
鋭く尖ったカードの端は気休め程度とは言え、武器になのだ。
「ふふ…アンタがあの見慣れない飛空挺の持ち主だろう?」
「ああ」
鋭い視線にも女は悪びれた様子も無く、戸棚の中から琥珀色の液体で満たされた瓶とグラスを取り出す。
「ここはね。ダリルを捕まえる為に時々帝国の兵士がいたりするんだよ」
瓶の栓が抜かれると同時に流れてきた柔らかな匂いが、その液体が酒である事を知らせる。慣れた手付きで二人分のグラスに酒を注ぐと、彼女はセッツァーの隣に寄りかかるように並んだ。
いとおしげに満たされたグラスを掲げる。カーテンの隙間からもれる光を受け、グラスは硬質な輝きを放った。

「帝国はダリルが飛空挺を駆ってるのが気に入らないのさ。
 自分達だけの技術だと思ってるから」
くるり。と、弄ぶように回されたグラスの中で蜜色の液体が踊る。
「アタシが助けなきゃアンタもまずかったかもね。
 何となく気になったから助けてあげたけどさ」
くすくすと喉の奥で笑う相手にセッツァーは正直迷っていた。確かにここ数年、帝国は力をつけて来ている。
敵に回せば厄介な存在だし、これから飛空挺を駆る自分にとってもこの注告は有り難い…しかし。

「帝国は飛空挺の技術を外に漏らした人間は惨殺だもの」

『帝国』その言葉を口にした時、女の瞳が一瞬燃えるような輝きを見せる。
その様子でセッツァーは、女が何を考えているのか、何が目的で自分を助けたのかを悟った。
しかしそれだけでは意図は掴めない。
「何が目的だ?」
復讐の手助けでもしろというのか…それとも少しでも帝国を困らせたいのか…。セッツァーが問い掛けるのと同時に持ち上げられたグラスを一瞬の躊躇の後に受け取る。
その仕草の意味に気付いたのか、女は呆れたような表情を浮かべたが、何も無かったかのように流した。
「黒い…飛空挺…ね…」
ふと、セッツァーから視線をそらし琥珀色の液体を透ける淡い光に目を細める。

まるで懐かしいものを思い出している時のような遠い視線…。
酒場にいた時とも先程までとも違う女の様子に、セッツァーは黙って次の言葉を待った。

「なんて名前何だい?」

もちろん名前があるんだろう?自分を見下ろす紫の瞳を覗き込むように尋ねる。思っていたのとは違う問いかけ
に、セッツァーは片目を眇めてみせるが、女は気にしていないようだった。
「…『ブラックジャック』だ」
一瞬の沈黙の後、自分の問いに答える少しばかり誇らしげな男の声音に、女は僅かに微笑む。
「ダリルに会う気なら。暫くコーリンゲンの側にいるっていってたよ」
その答えに満足したように女はきびすを返してテーブルに戻り、再びグラスを満たす。そして、ともすれば聞き逃しそうな声音でそう呟いた。
「情報料は出ないぜ?」
空になったグラスに視線を落とし、再度女の意図を探る。…と、グラスが手から奪われた。引き返してきた女がセッツァーの手からグラスを奪い、そのまま窓枠に置いたのだ。
「かまわないよ」
いい男は好きだからね。
女は囁くように言うなり、腕を首に巻きつけセッツァーを引き寄せる。そして…。
伸び上がるようにしてセッツァーの唇に自分のそれを重ねた。
「まったく。ダリルといいアンタといい…全くなびきもしない。
 私もそろそろ引退した方がいいのかしらね」
長い抱擁の後体を離した女は、不意の口付けにも表情ひとつ動かさない相手を睨みつけながら、心底悔しそうに呟く。
セッツァーはしっとりとした感触が残る唇に指を当てた。
「そんな事は無いさ」
今日はたまたま別のものに興味があったからな。
だから相手をしないだけだ…と言外に告げ、不敵に笑ってみせる。セッツァーの言葉に多少は機嫌を直したのか、女は肩をすがめてみせた。

「そろそろ夜が明けるね…明けないうちに行くんだろ?」
「ああ。俺の飛空挺が待ってるからな」
白み始めた空の明かりが薄い布地を透して部屋に忍び込む。僅かに布をずらし、外を確認しながらセッツァーは答えた。外は僅かに霧が巻き白く霞み、人目を避けるには最適だった。
「気を付けてお行き」
朝霧の中。酒場の裏口から女が男を送る…珍しくも無い様子に、僅かに辺りを通りがかる街の人間も興味はなさそうだった。
足早に霧の中に溶けていく銀と黒の色合いを追いかけながら、女は長い髪をかきあげる。

鋭い不遜な眼光をたたえた紫の瞳が、飛空挺の話をした時だけ煌いた事を女は見逃さなかった。
そうあって欲しいと、そう願っていたからこそ見逃さなかったのかもしれない。
セッツァーが垣間見せたのは夢を追いかける者が共通してもつ、輝く瞳。

「夢を追いかけてる男は好きよ…
女なんて待ってるだけで…忘れられても泣くだけだけど」

それでも夢を見てる男を見ているのは好きよ…。愛しそうに呟きながら女の脳裏に浮かぶのは善良な男の姿。
いつも油まみれで仕事をしていた。不器用だけど優しい……もう何処にもいない人。
「ダリルもあの男も貴方と同じ瞳をしてるのよ」
ほんと嫌う事も出来ないんだから、嫌よね…。
言葉の割には悔しがっているふうでもない女の言葉は、誰に聞かれる事無く霧の中に消えた。

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