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User: tsukishiro

『過ぎ去りし永遠の日々』

  • 2006/01/01


第1話 紅の翼





太陽は名残惜しそうに地平線に消えていき、空は赤く燃えた色から徐々に夜へと色を移してゆく。
辺りが夜の静寂に変わり行く中、家路に急ぐ鳥達をあざ笑うかの様に移動する巨大な存在が有った。静寂を破り響くのは空気を切り裂くエンジン音。
それは黒い優美な外観を持つ飛空挺…だった。

「思ったよりも時間がかかったな」

読みがまだ甘かったか…。飛空挺のデッキの上で悔しそうに呟く男が居た。冷たくなってきた風が、飛空挺を操る彼の長い銀髪を容赦なく巻き上げる。
切り裂かれそうな冷たい風を受けても男は真っ直ぐ正面を見据えていた。
鋭く前方に向けられた瞳の色は、暮れ時の空と同じ濃い青紫。まだ若いであろう男の顔には年齢不相応の余裕と凄みがあった。
ゆったりと前方を見れば、間近に迫ったジドールの街の灯りが見える。
「日が暮れる。今日はここまでにするぞ」
慣れたとはいえ、まだ夜の飛行は危険だ。かじを取っていた船の主はそう判断し、船員に指示を出す。男の指示を受けて、巨大な飛空挺はゆっくりと大地に降り立った。
飛空挺…セッツァーが帝国しか持ち得ないその設計図を手に入れたのは、彼の本業であるギャンブラーとして賭博場にいた時だった。彼とのギャンブルに負けてチップを払えなくなった男が出したモノ…それが飛空挺の設
計図だったのだ。
 空に憧れていた彼はその設計図をひと目見て夢中になり、今まで稼いだ金をつぎ込み飛空挺の開発を始める。
後日、その日の相手は帝国の開発者で設計図を勝手に持ち出した罪で殺されたと聞いたが、彼にとっては
そんなことはどうでも良い事だった。
『空を自由に駆ける翼が手に入る』
セッツァーはそれだけに固執し、資金や人材を集め……幾度の失敗やテストを重ねていった。
彼によって『ブラックジャック』と名づけられた飛空挺が完成したのはつい先日。
設計図を手に入れてからは既に5年の歳月がたっていた。
「ねえ。お兄さん遊ばない?」
「また後でな」
活気を帯びた酒場の一角。声をかけて来た商売女をかわし、セッツァーは琥珀色の液体をあおる。
祝杯をあげる船員達に付き合い労をねぎらった後、彼は街に出かけ酒場の世間話に耳を傾けていた。目の前に広がるのは、流れる酒のにおい、煙草の煙…今日の疲れをねぎらう為に飲む客。
そんな男たちの相手をする艶やかな商売女たち。
どこの街でも同じ光景…足を踏み込んだ酒場は騒然としていた。
そもそも酒場は色々な人種が集まる場所。だからこそ、酒場のあちこちで交わされる情報は意義が有るものだと言える。
しかもジドールは、この大陸でも比較的裕福なものが住んでいる街だ。沢山の人が集まる場所には良くも悪くも情報も集まる…そして今回も彼が知りたい事もそこに有るはずだった。
「聞いたか??」
「何をだ?」
大仰にあげられた大声にセッツァーは耳を澄ます。ちらりと視線をやれば、街の住人らしい数人の男たちの姿が有った。
そのうち一人が興奮した様子で声を荒げる。
「飛空挺が街のそばに停泊してるらしいぜ」
「また帝国の持ち物じゃないのか?」
「いや、違うらしい」
ぴくり。と、セッツァーの指が動き…その動きにあわせてグラスの中の氷が鳴る。他人から自分の飛空挺の話題が出る。
それが此れほど嬉しいとは。まだまだ自分も若造だな…、自嘲気味な笑みを口の端に浮かべながらセッツァーはグラスの中の液体を飲み干した。
「じゃあ。あれじゃないのか?どうせファルコンだろう?」
「違う。ファルコンじゃ無いんだ」
(何だと!!ファルコンだと!!)
男たちの話は終わらず…しかし、その後聞えたセリフにセッツァーは耳を疑った。
「飛空挺に乗っている奴がいるのか!!」
勢いにまかせて立ち上がり、男たちのテーブルに向かう。立ち上がった拍子に椅子が盛大な音を立てたが、セッツァーは気にしなかった。
いや、そんな事に気を取られるほどの余裕が無かったというのが正解かもしれない。
それほど彼は狼狽していたのだ。
「何だお前ファルコンを知らねえのか?」
凄い勢いで迫ってきたセッツァーに男達は驚き、動きを止める。
「ファルコンはダリルの飛空挺だよ」
すぐさま、まるで自分の自慢をするかのように自慢げな表情で切り替えした。
「帝国の追尾を受けても、ひらりとかわしていくのさ」
見てると胸がすかっとするくらい見事な腕前なんだ。男は持っていたグラスを掲げ、隣の男に話を振る。
「気風の良い性格をしてるそうだよ」
「最近の有名人さね」
同意を求められた男も、そう言ってセッツァーに笑ってみせた。
ダリルという存在の話をする男たちは皆誇らしげで、いかに好かれているかをひしひしと感じた。
帝国以外には自分しか持って居ないと思っていた飛空挺を、自分以外に駆る存在。
話を聞けば聞く程、セッツァーの心中は穏やかでは無くなる。しかし、今は嫉妬よりも気になる事があった。
飛空挺を開発した帝国の技術は確かだ、それを回避するのならばファルコンは相当な性能を持っていることになる。
もしくは操る人間の腕前がよほどのものなのか…。
一体ダリルとはどんな奴なのか、ファルコンはどんな性能の飛空挺なのか。
「そいつの居所は…」
どこか知っているのか?掴みかかりそうな勢いで男たちに迫ろうとした瞬間、セッツァーの言葉は封じられた。
後ろから腕を強く引かれたのだ。と、同時に腕にしなだれかる重みとくすくすと笑う声が響く。

「ねえ、お兄さんそんな無粋な話してないでさ。アタシと遊んでよ」

突然の乱入者に驚きながらセッツァーが自分の腕に視線をやると、艶やかな薄いドレスに身をつつんだ上物の商売女が、セッツァーの腕に自分の体を預けていた。

『過ぎ去りし永遠の日々』

  • 2006/01/01


序章 邂逅




部屋の主の趣味に調えられたソファーに向かい合わせに座る男と少女がいた。銀の髪に紫の瞳の男の話を緑の巻き毛の少女は飽きることなく聞いている。
今までの話が聞きたいのだ…と、少女が言ったのはいつだったか。彼以外の仲間にもそう言って話を聞いていたのは知っていたから、少女がそういい出したのは何故かも別段気にすることもなかった。
その日から男は苦笑しながら、幾度も彼の部屋に来る少女に付き合い…何時の間にかソレは当たり前の時間になっていた。
最初は気まぐれ封じら…でも今は違う。その身に持つ『魔導』という力の所為で感情を消され、道具として使われていたと言う少女…。

それ故に彼女の感情に乏しい瞳が、時々興味深そうに煌くのが見たい…。
男がそう思ったからかもしれない。
「どうして飛空艇に乗る事になったの?」
今日も少女は淡い水色の瞳をわずかに輝かせながら男に問う。辺りは夜の静寂が流れ…
部屋の中には少女の静かな声が響いた。
「空の上から世界を見てみたかったのさ」
何を今更と言わんばかりに、男は大仰に肩をすがめてみせた。何も変わらない、何時も通りの仕草。
しかし少女も知っていた。
彼の愛する飛空挺…その話題になったときだけ、男の瞳が少年のように煌く事を。

「それだけ?」

何時からか解らないがそれに気付いた時から、彼女はそんな彼の瞳を見るのが好きになった。多分誰も気付いていない、その事実を知っているのが自分だけ…その現実が嬉しくて、その瞳をもっとみていたくて…。
だから、その少女の問いに特に深い意味はなかったのだ。
「勝ちたいと思っていた奴もいたな」
だが男の動きは一瞬止まり…今までとは違った重い声が、辺りに響く。
「勝ちたい…人?」
解らないという様に首を傾げると、男は目の前の少女から窓の外に広がる星空へと視線をそらす。
少女は黙ってしまった男が再び口を開くのを、静かに待っていた。
「そいつに俺が初めて会ったのは…ひどく昔の事」
どれくらいたっただろうか…男は遠くを見つめたまま話始める。
「ブラックジャックを完成させ、大陸を越えた先の街にいた時だった。
飛空艇を完成させたのは自分だけだ…と、有頂天になっていた俺をどんぞこの気分に叩き落した存在。
とにかく初対面の印象は最悪だった」

「……貴方は、その人が嫌いだったの?」

その話題になった時、机の上で組まれた男の指に一瞬力がこめられたのに気付き、少女は問う。どんな時でも余裕と自信を失わない目の前の男…彼でも何か動揺する事が有ったのだろうか?
それが不思議でならなかった。

「嫌い…か。そうだな嫌いだったかも知れない」

「最初…は。な」
一瞬の動揺を覆い隠してゆるゆると振り返り、口の端に僅かな笑みを浮かべ少女をみつめ返す。
自分をみつめるのは疑う事を知らない無垢の瞳…それは時に隠してきた全てを暴く凶器になる。
それでも男は言葉を綴る。誰かに言ってしまいたかったのかもしれない…もしくは相手が彼女だからこそ話す気になったのか。
「そのくせ何時の間にか同じ夢を語り合う親友になっていた」
遠い昔に思いを馳せるように目を閉じる。
彼がその相手を思い出す時のイメージは鮮烈な金。もしくは何もかも焼き尽くしそうな炎のような赤。

「長い金の髪を風になびかせ、荒くれ共を制し、最速の飛空挺『ファルコン』を駆る存在。
 そいつの名はダリル」
少なくとも森の中から抜けてきたような穏やかな、でも激しさも秘めた目の前の少女。
彼女とは全く違うイメージだった…男は心の中でふと思う。
「ダリル……この船の持ち主…だった。という人??」
知らない…見たことも無い表情。良く知っている相手が見知らぬ相手の様に見えて…少女の。…ティナの声は僅かに硬くなる。
何故そんな風に感じるかも解らなかったが、何か心がざわざわするような嫌な気がした。

「そうだ…『ダリル』…それが世界最速と呼ばれた女の名前」

そんな少女の様子に気付かず、男…セッツァー・ギャッビアー二は昔に思いを馳せ話を始めた。
彼が大空に飛び立った、その時の事を。

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