第5話 その先にあるもの

 

 窓から一筋の光が差し込み…空のまま放置されたグラスに反射する。
その光が闇に慣れた目に眩しくて…瞳を細めてセッツァーは窓の外に視線をめぐらせた。


雲間から覗く淡い日の光。
「いつのまにか夜が明け出しちまったな」
もう寝ろ…と、ティナを送り出してからもうどれくらい過ぎたのだろうか。
気付けば夜は明けだして…新しい日が始まろうとしている。
話し始めた時は、ささくれ立ったままだったダリルに対する思いが。今…こんなに静かになっている。
その事実にセッツァーは小さく笑みを浮かべた。



「なあ…ダリル」



アンタが言ってたのはこういう事だったのか?
誰か大切な相手を見つけるという事。
自分を…仕える相手でもなく。憧れの先に見るでもなく…何の偏見も無く付き合える仲間たち。




そして…。




「お前さんが言ってたような。
存在になるかどうかはわからないがな」
冷たくしても…どんな傷つけるような言葉にも真摯に答えようとする大きな蒼い瞳。
それでいて間違っていると思えば一歩も引かない…。
「そうだな…あいつにならやってもいいな」
長い間。沈み込みように身を委ねていたソファーからゆっくりと立ち上がり、セッツァーは大きな…光沢を放つ机の小さな引き出しを引く。
そこには…あの日渡された小さな小箱。
「あいつ…どう化けると思う?」
箱は小さく彼の手にすっぽりと納まってしまう程度で…重さも無い。
けれど、そのわずかな重みが…長い年月過ぎても変わる事無く残るダリルという存在を思い出させる。
「きっと似合うだろうよ」
緑の巻き毛。大きな蒼い瞳の少女の…白い肌にこの繊細な細工の耳飾は映えるだろう。
「丁度リボンがダメになったって泣きはらしてたしな」
布と違って宝石なら滅多な事では壊れないし丁度良い。
そんな事を考え。セッツァーはそろそろ自分を起こしに来るであろう少女の事を考える。
何時も遅くまで起きない自分をめげずに起こすティナは…きっと此方からドアを開けたら驚くに違いない。
驚いた所にこれを渡したらどんな反応があるのだろうか?
びっくりして目を見開く相手の姿を想像してセッツァーは口の端に小さく笑みを浮かべ…。
今考えた事を実行に移すために歩きだした。