総一(肌色多め)
- 2006/04/14
- Category:蒼穹のファフナー::放映当時作品
- 月白


User: tsukishiro
なんて身勝手な…それが思った事。
「皆城君。翔子を…翔子を還してっ!!」
縋るような声音に、どう返せば良いというのか。
「あれの適任者は彼女です。貴女もご存知の筈ですが」
「だけどっ…」
尚も言い募る相手に、言える言葉はただひとつ。
何故ならば…。
「僕たちは、その為の子どもの筈です」
内心の動揺は声に出なかっただろうか。
抑えつけた分、自分の声は更に平坦で、きっと冷淡にすら聞こえるだろう。
驚きに見開いた瞳は揺れて…。
ファフナーに乗り込んだ羽佐間。接続された意識から流れ込む想いに、先程乗り込む前に交わされたのであろう、偽りの親子の会話が悟れた。
何故…本当の事を羽佐間が知っているのか…そんな事は解らない。
ただ感じたもの。
先に乗った一騎には「大丈夫」と、戦場に送り込んだ癖に。自分の子供はそんなにも守りたいのか…と、嘲りの笑みが浮かぶ。
けれど、そんな相手の感情に――たとえ養子であろうと、子どもだと。愛しているのだと――ほんの少しだけ。救われる自分も確かに居て。
なんて身勝手な…。
先程と同じ言葉を…今度は自分に向けて放つ。
そして外部からのモニタを切り、戦闘にだけ集中する。
「羽佐間。それではムリだ!!」
訓練などろくにして居ないのだから、当たり前とは言えど…これは無茶すぎる。
ただひたすら単調な攻撃のみを繰り返す少女に。けれど制止の言葉は通じず。
流れ込む想いはただひとつ。
『この島を…一騎君の島を守りたい』
迷いもなく輝く、思い。
だが思いだけでは何もできない、この輝く敵の前では何の力にもならないのだ。
それなのに、何故。
ここまで…。
「羽佐間。もう良い…離れるんだ」
機体にファスティムをくくりつけ…上昇する。無茶だったが成功したと思われた行動は、少女が放った…次の言葉に凍りつく。
「離れない」
それは、ファフナーとフェスティムの同化を意味するもの。
そうなってしまえば…もう。残された道は…。
「皆城君。フェンリルを起動するわ」
何も無いように呟かれ、起動するシステム。
止める間も無く表示されるカウントダウンの数字に、もう…。
僕に返せる言葉は残っていなかった。
「翔子ーーー!!!!」
制止さえ聞かず、上昇する羽佐間を…追いかける一騎。
その目の前で…白く輝く…その機体。
どちらの姿も、そしてどちらも間に合わないのを知りつつ。何もできない自分。
無力なのは一体誰なのか。
「皆城君…」
他の誰にも聞こえないだろう。ジークフリードシステムを介して聞こえる…小さな声。
「 」
ああ。
自分の心のままに戦った…君は後悔などしていない。
解っている。
解っているけれど。
『あまり親しくしない方が良い。
もう。友達のままではいられないのだから…』
つい先だって、自分が一騎に言った言葉。それは確かに…そういう意味であっただろうが…。
だけど、こんな結末…僕だって望んでなど居ない。
閉じた瞳の端から流れる、何かは抑える事は出来なかった。
04.08.16UP


窓から一筋の光が差し込み…空のまま放置されたグラスに反射する。
その光が闇に慣れた目に眩しくて…瞳を細めてセッツァーは窓の外に視線をめぐらせた。
雲間から覗く淡い日の光。
「いつのまにか夜が明け出しちまったな」
もう寝ろ…と、ティナを送り出してからもうどれくらい過ぎたのだろうか。
気付けば夜は明けだして…新しい日が始まろうとしている。
話し始めた時は、ささくれ立ったままだったダリルに対する思いが。今…こんなに静かになっている。
その事実にセッツァーは小さく笑みを浮かべた。
「なあ…ダリル」
アンタが言ってたのはこういう事だったのか?
誰か大切な相手を見つけるという事。
自分を…仕える相手でもなく。憧れの先に見るでもなく…何の偏見も無く付き合える仲間たち。
そして…。
「お前さんが言ってたような。
存在になるかどうかはわからないがな」
冷たくしても…どんな傷つけるような言葉にも真摯に答えようとする大きな蒼い瞳。
それでいて間違っていると思えば一歩も引かない…。
「そうだな…あいつにならやってもいいな」
長い間。沈み込みように身を委ねていたソファーからゆっくりと立ち上がり、セッツァーは大きな…光沢を放つ机の小さな引き出しを引く。
そこには…あの日渡された小さな小箱。
「あいつ…どう化けると思う?」
箱は小さく彼の手にすっぽりと納まってしまう程度で…重さも無い。
けれど、そのわずかな重みが…長い年月過ぎても変わる事無く残るダリルという存在を思い出させる。
「きっと似合うだろうよ」
緑の巻き毛。大きな蒼い瞳の少女の…白い肌にこの繊細な細工の耳飾は映えるだろう。
「丁度リボンがダメになったって泣きはらしてたしな」
布と違って宝石なら滅多な事では壊れないし丁度良い。
そんな事を考え。セッツァーはそろそろ自分を起こしに来るであろう少女の事を考える。
何時も遅くまで起きない自分をめげずに起こすティナは…きっと此方からドアを開けたら驚くに違いない。
驚いた所にこれを渡したらどんな反応があるのだろうか?
びっくりして目を見開く相手の姿を想像してセッツァーは口の端に小さく笑みを浮かべ…。
今考えた事を実行に移すために歩きだした。


「珍しいな」
こんな時間にお前さんが来るなんて。
茶化すように声をかけると、真夜中の訪問者は黙って手にしたボトルを上げてみせた。
「せっかくの土産はいらないようだな」
薄く紅をさしたような口の端を上げてやり返され、セッツァーはやれやれと肩をすくめ。部屋に設置された棚から上等のグラスをとりだす。
「で、どうしたんだ?」
良い音を立て、ボトルの蓋が開く。
黙ってボトルを向ける相手に、自分用のグラスを差し出しながらセッツァーはわずかに身を乗り出した。
普段と変わらぬ色合いの瞳にわずかに垣間見れる輝き、何かを始める前の静かな色。それをセッツァーは見逃さなかった。
「ファルコンのエンジンをいじった」
長い沈黙の後、窓から覗く月光にグラスを掲げダリルは目を細める。
「明日…飛行テストを実行する予定だ」
最速の飛空挺ファルコン。
その揺るぎない賛辞を受けながら…まだ彼女は速さにこだわり飛空挺の改造を続けていた。
そんな彼女にとってテストも別に珍しい事ではなく。
…だが、滅多にない歯切れの悪い言葉に夕暮れ色に染まった瞳を向ける。
「今度のテストは…危険だ」
帰って来れないかもしれない。
「縁起でもねえな」
続く弱気な発言にセッツァーは聞きたくも無いとばかりに鼻をならしてみせ、そんな反応にダリルは笑ってみせた。
帝国に滅ぼされた町に乗り込んでから…もう一年はたつだろうか…その間にセッツァーがダリルの過去を聞きだした事はなかった。
何故…?
そう問うことは簡単であろうに、あえてしなかった事を考えると。飛空挺を駆る自分だけを見てくれるのだろう。
ダリルは自分の考えに小さく微笑む。たとえ無意識に避けてるいるのだとしても…それはそれで良い。
そう思う自分が妙におかしかったのだ。
この夕暮れ時の瞳の青年にここまで心を許しているのかと。
「そうだな。縁起でも無い話だ」
だが。と、彼女は続ける。
「それぐらい危険なんだよ今回は…」
掲げるように両手に持った琥珀の輝き。
ゆらりゆらりと誘うように変化する色は空から見下ろす金の野原にも似て…ダリルは気に入っていた。
「だからと言って挑戦することをやめる事は出来ないしな…ただのわがままさ」
でも私らしいだろう?
にやり…と口の端を上げてみせる相手に、セッツァーは無言でグラスに酒をつぎたす。
確かに今までの経験上ダリルが誰かの忠告を聞いた事など無く。むしろ辞めろと言えば嬉々としてやりかねない。
そんな相手の性格を考えれば、確かに止める方が無駄に違いなかった。
「本当に…お前を止められるヤツなんぞいないな」
ため息にのせた苦笑に、ダリルが「おや?」と目を細めるのを見て…セッツァーは訝しげに視線をめぐらす。
「知らなかったのか?」
「何をだ」
心底びっくりしたとでも言わんばかりの声音に、セッツァーはむっとしながら問い返す。
その言葉に見る間にダリルの顔が楽しそうにゆがめられて行くのを見て、セッツァーはしまったと思った。
こんな時の相手は非常に性格が悪い。
それも経験上嫌と言うほど知っていたからだ。
「まあ良い。これをやろう」
不機嫌とそれ以上に墓穴を掘ってしまった事を隠し切れない相手にダリルは、意地の悪い笑みを浮かべて小さな箱を手渡す。
「何だ…」
思わず素直に受け取ってしまった箱をいぶかしげに見つめる。
そんな反応すら今は可笑しくてダリルは喉の奥で笑いを堪えながら相手の反応を見守る。
「やるよ」
セッツァーは未だ笑みを消さない目の前の相手に、じとりと視線を送ってから。手のひらに収まる程度の小箱を開ける。
小さな…けれど上質だと解る青い宝石。
繊細な飾りを施された金の細工の留め金が、月の光をはじき星のような光を放つ。
小箱に収められていたモノは女物の耳飾りだった。
「……これをどうしろと?」
たっぷりと時間をかけて考えてから、鋭い視線をセッツァーはダリルに向ける。
賭博場を網羅し、知名度を上げるうちに磨きがかかった刺すような視線にも全く動じることも無く。
むしろ楽しそうにしてダリルは答える。
「お前の事だ。
好きな相手が出来ても気の利いたモンは何もやらんだろう?」
もし死んだりしたらそれだけが心残りでな。
さも楽しそうに告げられて、セッツァーはがくりと肩を落とした。
「冗談にも程がある」
言い寄る女は星の数ほどいるが、それは皆セッツァーの持つ名声と金に言い寄る者ばかりで…そんな関係を楽しむ事は有っても。ダリルの言う様に誰か…などとは考えた事は無かった。
そんな特別な異性といえば…。
あえて言うのなら…そう目の前で自分を困惑させて楽しんでいる…ダリルだけだ。そうセッツァーは思う。
「冗談じゃないさ」
途中から色合いを変えた視線に気づいているだろうに、それには触れずダリルは笑みを消した瞳で先を続ける。セッツァーが自分に抱いている感情。それは無意識につのる羨望や…憧れと言う名前を持つもの。
そう解って居たから。
「何時かお前にも解るよ」
誰か大切な人が居るという事。
その相手が居るから…無謀な事も意味があるのだと。
意味の無い…そんな人生を送って欲しくないから。いつのまにか弟のように思えてならない目の前の青年に、ダリルは謎をかけるように言い聞かせる。
押し黙ってしまったセッツァーに…ダリルは、セッツァーが考え込んでいなければ気付くであろうタチの悪い笑みを浮かべた。
その言葉を聞いた時の相手の反応を見たくて。
引き伸ばしておいたのだ。
だから…。
「実際私もそうだしなあ」
殊更意識して…さらりとそう言いのける。
「何だと〜っ」
その瞬間目を剥いて叫ぶセッツァーにダリルはしてやったりとばかりに高らかに笑い出した。
明けていく空に…響き渡る軽やかな笑い声。
そして送り出したダリルは…。
鮮やかな赤の炎をセッツァーの胸に焼き付けたまま。
予告通り二度と帰ってくる事は無かった。

